約 3,790,864 件
https://w.atwiki.jp/bacouple/pages/411.html
11月 2015年 Clochette いちゃラブゲー せせなやう 保住圭 和泉万夜 姫ノ木あく 深山ユーキ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (hight=120) 原画:せせなやう 企画原案、プロット、シナリオ統括:保住圭 シナリオ:保住圭、姫ノ木あく、和泉万夜、深山ユーキ 13 :名無したちの午後:2015/11/23(月) 21 15 12.78 ID 8QdaNHXe0 ここ夏は体験版やった感じだと安定だと思う 保住っぽさが出てる 56 :名無したちの午後:2015/11/30(月) 19 25 31.35 ID 9luo2F8P0 ここ夏、寿ルート終わったけどクロシェ特有の謎バトルとか無くて驚いた 他のルートもこんな感じなのかな 67 :名無したちの午後:2015/12/02(水) 23 03 42.24 ID Q2zh1EtP0 ここ夏、いろはルート終わったけどざっくり感想 おそらく担当は保住 シリアスっぽくなる雰囲気はあるけどいろはの性格もあって暗くなることはない ラストの解決方法は結局イチャつくこと(それだけではないけど) てな感じで個人的には満足。ただ、付き合い始めてもいろはのテンションは全く変わらず そこに「いつもの保住」がプラスされる感じなのでいろはの性格が合わない人にはきついかも 自分はこういうキャラ好きなのでとてもニヤニヤさせていただきましたw 68 :名無したちの午後:2015/12/03(木) 13 17 42.56 ID 8ayfEeYW0 イチャイチャラブパワーで問題解決型のシナリオは良いよね。 69 :名無したちの午後:2015/12/03(木) 20 11 58.07 ID PiPduBWN0 ここ夏は アリカ「うちの妹とSEXをして孕ませてあげてほしいの!」 二人「「なんで!?」」 アリカ「そしてその時の様子をぜひ私に教えて!」 二人「「なんで!?」」 アリカ「レポートにして全世界に発表するわ!」 二人「「やめて!?」」 のやりとりは不覚にも笑ってしまった ここ夏は11月作品ではなかなかおすすめ 今までのクロシェット作品ダメだった人でもいけると思う むしろクロシェット作品ダメだった人のほうが気に入るかも 78 :名無したちの午後:2015/12/05(土) 16 18 18.19 ID rEoZSaod0 ここ夏アリカルートをやってると思う 「あなた」呼びは最高だなと 二人称かつ深い関係って感じだから ラブラブ度が増してると思う 81 :名無したちの午後:2015/12/05(土) 17 07 59.68 ID nnsEqi4M0 ここ夏はキャラ萌えゲー?イチャラブゲー? 83 :名無したちの午後:2015/12/05(土) 17 49 59.65 ID kR72XTeD0 81 いちゃラブ要素のあるエロい萌えゲー、かな? でも無駄シリアスがないからプレイはしやすい ここの住人なら十分楽しめると思うよ 133 :名無したちの午後:2015/12/09(水) 18 46 14.81 ID o6uxR8P80 ここ夏は保住なのでギャグはあんまりない キッキンみたいにまったりゆるゆる進む感じ なので人によってはつまらないと感じるかもね 840 :名無したちの午後:2016/04/01(金) 21 51 36.62 ID mH2tPdn60 11月 ここから夏のイノセンス ○ エロいしいちゃラブもしているしシリアスもほとんどない シリアスもほとんどない これまじ? 841 :名無したちの午後:2016/04/01(金) 22 26 12.39 ID 9fdIWHJ20 840 書いてるの保住だからな 設定はすごいシリアス臭がするけど、中身はかわいい女の子と田舎生活おくるだけやで 842 :名無したちの午後:2016/04/02(土) 06 51 40.92 ID WYpPzGOR0 時代が違う娘とくっついても結局別離とかないしな 844 :名無したちの午後:2016/04/02(土) 08 29 22.40 ID d+MVZW8B0 サキガケの事を考えるとここ夏は原画も違うし 企画とかプロットからバトルとかシリアスはなかったんじゃないかね 845 :名無したちの午後:2016/04/02(土) 09 18 34.24 ID MdvxGTZG0 ここ夏は企画原案・シナリオ総括・プロットまで全部保住だからな 846 :名無したちの午後:2016/04/02(土) 09 48 54.05 ID HtjoyyNC0 ここ夏は体験版で損してる感じはあったな 序盤の主人公ウジウジしてて微妙だし 891 :名無したちの午後:2016/04/05(火) 23 41 33.14 ID GLtsiLxj0 876 俺も確認したら、4/4の更新履歴にびびったw 編集してくれたナイスガイGJ 設定でなんとなく食指が動かなかったここ夏、 840辺りからのレス見て興味が出てきたんで 土曜に回収してぽつぽつ進め始めたんだけどいいねこれ 丁度いろは√終わったとこだけど 全身で大好き表現してくるいろはに 手つないだり頭なでたりぽっぺたむにむにしたりして応えてやると 本当にうれしそうにしてくれるもんで 終始ニヤニヤしっぱなしだった 186 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 03 19 51.02 ID lrQu/KDs0 ようやくここ夏終わった・・・ ユノルートは無駄シリアスありじゃね?ユノルートを一番最後にしたこともあってイラッっとする 展開が何度かあったわ。あの指令はいろはルートとも矛盾するしどうしてああなった プレイ順 実績 寿→いろは→アリカ→ユノ 推奨 ユノ→寿 or (いろは→アリカ) いろはルートもアリカルートの後にやるとイラッっとする可能性がありそう 191 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 13 26 03.95 ID ZOgXMVhF0 186 あと寿ルートも尻アス無駄すぎが指摘されてたな 該当部分担当ライターと思われる和泉万夜はグロ抑えてもエロテキスト補強要員以外の仕事は結局切ない系だからな それでも全体としてはサキガケプリコレよりはイチャ部分の長さは確保しているという しんたろー新作にも一応サキガケから参加してる保住はいるっぽいカンジだがメインじゃないし あそこの声優やライターの選択傾向だと籐太辺りもパクリやらかして(メーカーに代わって謝罪こそはしたが)ラノベに逃げた森崎の代わりに和泉と一緒かどちらか片方入ってそう 193 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 14 20 39.40 ID lrQu/KDs0 191 寿ルートは一番最初にやったためかあまり気にならなかったわ。ただし終わり方がちょっと不満 いろはルートで東奔西走した事案がアリカルートだと1シーンで片付けられているのもちょっとね・・・ まぁシナリオディレクションが微妙なクロシェットだからと言ってしまえばそれまでなんだけど もったいないとは思う イチャてきにはいろはとアリカが良かったかな。いろははひたすらべたべただし、アリカは真っ白だし 194 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 15 15 08.91 ID H+PeR1gT0 ここ夏はサブルートながらも紅緒がストライクだった メインヒロインとは違いシナリオあってこそのキャラ設定と言う訳じゃないけど 恋人として関係を深めていく部分に焦点を当てれば魅力的なイチャラブ描写が出来そうな良いヒロインだった まああくまでオマケルートなんだけど 195 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 16 42 31.46 ID DdU8h+KT0 ずっとここ夏みたいな作品作ってくれればいいのに 196 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 17 03 33.00 ID oRUrXLqv0 基本的にクロシェットのシナリオは終わってるからね あまみそあたりからホントダメダメだったけど絵師変えたらシナリオも変わって良かった良かった SMEEにしてももう少し遅らせて何がなんでもあめとゆきとスケジュール調整して彼女に今回の絵をいつも通り任せれば良かった(今回はシナリオも不安だから問題それだけじゃないけど) 613 名無したちの午後2016/10/15(土) 09 21 38.64 ID odNoAVzL0 ここから夏のイノセンスが壮大な設定と見せかけていちゃラブしかないと聞いて気になってる 未来から来たとかの設定はシリアス感がするんだけど 614 名無したちの午後 2016/10/15(土) 10 10 15.92 ID U1nh1/kN0 主人公は落ちこぼれで僻地に飛ばされたみたいな設定だったよな、イノセンス なんか赤い髪の常識人ぶってる純粋な子が一番エロいとかそういうのを聞いたような 616 名無したちの午後2016/10/15(土) 10 15 41.59 ID GomKJG9H0 軽くネタバレになるけど主人公にイチャラブさせるために送り込まれたようなものだから結構良かったよ 序盤はなんか主人公の劣等感がウザいけど乗り越えてからは割りと問題ない 618 名無したちの午後2016/10/15(土) 10 22 25.95 ID 2Ugr6Tsj0 613 クロシェット=御敷仁・しんたろーと考えてる人には評判悪かったみたいだが このスレにいるってことはイチャイチャしてるかを重要視してるってことだよな そういう意味じゃ、保住が企画から関わっているだけあって全く問題ない 俺も設定のせいで二の足踏んでたが、このスレでお勧めされて手を出したクチだよ 615 ここ夏についてだったら、別離は一切ないぞ 別離→エンディングで再会とかいうのもない 一旦くっついたらくっつきっぱなしだ 619 名無したちの午後 2016/10/15(土) 10 54 51.17 ID 3jt6rR+80 一緒にいるために二人+周りの人たちと頑張るって感じだしな 別離は一切ない
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17913.html
■ 「あ、曽我部さんじゃないかあれ」 その日の講義が終わって廊下を歩いていると、律が声を上げた。 視線の先には、桜ケ丘高校時代に生徒会長をやっていた曽我部さんが確かにいた。 相変わらずだと思うけど、私が高校時代に先輩を見た時より数段綺麗になっている印象だった。 大学生ってこんなにも変わるものなのかな。私はまったく変わっていないなあ。 すれ違い様に、二人は立ち止まった。 「あら、田井中さん」 「どーもっす」 律は知り合いなのか。 そう突っ込もうとするけど、人前だから言えなかった。 「澪は知ってるよな。生徒会長やってた曽我部さんだよ」 「……こんにちは」 初対面の人との会話は本当に弱い私だ。 律以外は大抵初対面になるのだけど、人見知りはほとんど直っていない。 少しぐらいそういうの直せるかもと期待して律の口調を真似る特訓を二人で半年ほどしたけど、結局似たような口調になるだけで性格は直らなかった。 しかもその口調を使えるのは律の前だけで、他の人には敬語で接してしまう。 初対面の曽我部さん。私は委縮して緊張した。 でも、一応挨拶だけはできたぞというわずかな達成感はあった。 それだけで達成感なんて本当に弱い。 「こんにちは。えっと……?」 曽我部さんは言いながら首を傾げた。 私の名前がわからない、のだと思う。曽我部さんは律を見た。 律は私を見て一瞬呆れると、私の肩に手を置いた。 「こっちは秋山澪です。私たちと同じ桜高だったんですよ」 「そうなの。じゃあ私の後輩ってわけね」 「……」 喋りたいのに喋れない背徳感。 それは律と出会った最初の頃からひしひしと感じていた。私は喋りたくないわけじゃないんだ。だけど喋りたくなんかないんだ。 私が喋ったって、どうせおどおどして途切れ途切れで……相手に迷惑を掛けちゃうだけだから。 だから極力あんまり話したくないといつも決めているのに。 曽我部さんは私に何も言わずに、律に話しかけた。 「どう? もうすぐテストみたいだけど」 「え? は、はい。まあなんとかやれてますよ」 律は取り繕うような笑いを見せた。 嘘つけ。さっきまで私に困ったように懇願してきたくせに……。 私は苛立ちを感じずにはいられなかった。 「おーい恵! サークル遅れるよ!」 先を歩いていた曽我部さんの友達が、声を上げた。 「あ、ごめーん! それじゃあ二人とも。またね」 「お疲れ様ですー」 律は駆けていく曽我部さんの後ろ姿にそう言った。 私はなんだかそわそわして落ち着かなくなって、何も言わずに胸の前で手を握りしめていた。 初対面とはつくづく相性は悪く、結局変われていない自分の情けなさを痛感するばかりだ。 「はあー、すげーな大学生って」 「……うん」 「大学入って二年であんなに変わるのかねー」 「律は、大学入る前の曽我部さんを知ってるのか?」 知っているかのような口ぶりの律に、私は聞くしかなかった。 律は両手を後頭部に回して、呑気に返す。 「私バスケ部の部長だって話はしたじゃん? だから会議とかで生徒会室とかに行く機会があったんだけど、その時に知り合いになったんだよ」 「あ、そう……」 バスケ部の部長、か。 その話は会った時からよくする。律は快活で元気な、運動神経のよい女の子だ。 バスケをする姿はよく映えるだろう。部長になっても不思議じゃない。 となると部長会議なんかに出てても普通だから、その関係で曽我部さんと知り合いになったんだな。 「私は全然変わってないよなあ、一年なのに」 「そうだな」 「澪は変わったけどな。口調なんて、四月と比べるとさ」 律は無邪気に白い歯を見せる。 もう曽我部さんの話題は終わったのに、なぜかモヤモヤは尾を引いた。 心の中の私は、なんとか振り切って律の言葉についていく。 「口調だけしか変わってないけどな……」 「それでも、強そうに見えるよ」 「見えるだけで、中身は……」 「でも少なくとも、私に対しては前よりも自信持ってくれるじゃん」 それは律に、心を許しているからだ。 律は私を、どんどん崩していく。 今まで頑なに誰かと一緒にいることを拒み続けて、逃げて逃げて逃げまくった私を簡単に捕まえて。 優しい笑顔で、ずっと話しかけてきたのだ。 それが私にとって最初は大変でも、いつからかそれだけが安らぎに変わっていて。 律にだけ、私は……――。 「それより、帰ろうぜ」 「この後は何するんだ?」 「とりあえずセッションだけしない?」 講義を終えてから、律の家で一時間ほど楽器をつつく。 それで六時くらいになって、私はやっと家に帰るのだった。 それが去年の十月ぐらいから続いていた。 「ああ」 ただ今日は、ちょっとだけ乗り気になれなかった。 律のことを好きな子が理学部にいて、その子が律を食事に誘ったこと。 それがバレンタインの日だということ。 私以外の人と、律が以前より知り合いだったこと。 律には、私よりもたくさんの友達がいること。 いろんなことが、引っかかりすぎている。 「行こっか」 「……うん」 こんなこと、なかったのに。 最近律を意識することが、顕著になってきた。 それは。 どういうことか、よくわからないけど。 ■ 私はベースを買った。 この十カ月、私はいつも律と一緒にいて、律といろんなものを共有して……好きなものまで一緒になって。 結局楽器を始めることになったのだ。 初めて律の家に遊びに行った時、律にザ・フーというバンドのDVDを見せてもらった。 その時、ちょっとだけ興味を持った。 それ以前から少しだけ音楽のことに興味を持っていたけど、結局何もしていなかった。 だから、律が音楽が好きだと知って、私も何かやろうかなって思い出したように考えたんだ。 こっそり律の音楽雑誌を読んで私も楽器をやろうと思った。 でもギターはなんか目立つから嫌だった。だから悩んだ末にベースを購入したのだ。 私もベースやろうかな、と言った時の律の喜びようと言ったら……。 私の名前を何度も呼んで、抱きついてきた。 あの時の律は、どこか変だった。 喜んでくれるかと思ったけど、律は泣いたのだ。 それがよくわからなかった。 律の部屋で、セッションをした。 あいにくバンドを組んでいない……というか元よりバンドを組むつもりはさらさらなかったので、二人だけでずっと演奏するのが普通だった。 ベースとドラムはリズム隊という一つの括りなので、一応はセッションが可能だった。 『ベースとドラムは一括り』というのは、なんとなく嬉しかった。 律はというと、あまり盛大にドラムを弾けないのが悩みだった。 「隣に迷惑なんだよなあ……音がすごいから」 「ベースも同じだよ。まあただのアパートでセッションすること自体いろいろと間違いなんだけど……」 律も私も、住んでいるアパートは防音で楽器は持ち込み大丈夫の物件だったが、しかし少しは音は漏れる。 ベースもドラムも音はすごい。だから、思いっきり楽器を弾くことはできなかった。特にドラム。 律はドラムセットのシンバルに触れた。私はベースを担いだまま立っていて、その律の様子を見ていた。 「はあ……やっぱり、軽音サークルに入ったほうがいいのかなあ」 律が溜め息混じりにそう言った。 一瞬喉が詰まった。 「サークル……」 無意識にそう呟いていた。 「澪?」 名前を呼ばれたけど、私は反応できなかった。 サークルに入れば、思いっきり演奏はできるだろう。 防音がされているとはいえアパートの一室でアンプに繋げてベースを鳴らすのも、勢いよくドラムを叩くのにも限界はある。 他の住民の方に迷惑だし、何より目立つ。 だから、サークルに入れば思う存分演奏はできる。 それはいいことだろう。 でも、私は釈然としなかった。 サークルに入るなんて……。 すでに出来上がっているサークルの輪。どのくらい人数がいるのかわからないけれど、でもすでに四月から十カ月だ。 もうメンバーは仲良くなっているだろう。 そんなすでに出来上がっている仲良しサークルに、今更入るなんてことは私にとって怖くてたまらなかった。 ただでさえ人と話すの苦手なのに、サークルだなんて。 しかもすでに出来上がった仲良しの中に入り込むなんて。 頭の中でサークルに入った私を想像してみる。 でもどうやったってオロオロして、どぎまぎして、律の傍にずっといて……話しかけられたって全然会話は繋がらなくて。 それで皆に呆れられて、嫌な思いさせて、それで一人になっちゃうんだ。 律も、私を放ってサークルの人と――。 律? 律は私と違って、明るくて、友達を簡単に作れて……。 律がサークルの人たちと仲良くやっている姿が浮かんでくる。 そして、私は、遠くからそれを眺めてて……。 それが頭で再生されると、胸が一杯になった。 (……律に嫉妬してるのかな) 私なんかと真逆で、太陽みたいに明るくて、皆を笑顔にする。 だから、律のことを好きな子がいたって不思議じゃない。 律が誰かと仲良くしたりする姿を想像したり、実際律が誰かと仲良さそうにしたり……私にはできないことを平気で律はやってのける。 私はそんな律が、羨ましいと思っているのかもしれない。 だから、こんなにも痛いんだ。 「澪、どうかしたのか?」 律が私に声を掛けた。 私の気持ちも知らないで、呑気に構えて。 なんだよ……。 「なんでもないよ……今日は終わりにしよう」 私はベースを下した。 律は私を見て怪訝な顔をするけど、そうだなと返して立ち上がった。 ■ 夜、律と電話した。 結局律が誘われたバレンタインのお食事会の話題になった。 私は布団に寝転んで、律の声に耳を傾ける。 「食事会、どうしようかな」 「なんでそれを私に言うんだ? 律が自分で決めればいいだろ」 「そうだけど、でも……澪なら、どうする?」 考えてもみない質問だった。 私が律なら、どうするのだろう。 私のことを好きだと言ってくれる子がいて、その子が一緒に食事しませんかと誘ってくる。 でも、どうなんだろう。私は律と一緒にいたいから、断ってしまうかもしれない。 だけどその子の気持ちもありがたいと思ってしまうかも。 いや、私は何を言ってるんだ。 律と一緒にいたいからってのはおかしいだろ。今私は『私が律だったら』の例えを考えているんだ。 私が律だったとしたらの話だ。それなのに律と一緒にいたいからってのはおかしい。 律が二人いることになってしまう。 だとすれば、逃げる理由がなくなる。 だって私が律なら……。 私が律なら、澪と一緒にいたいから断るなんて選択肢はないんじゃないか。 だって律は、友達がたくさんいて。 私みたいに、『律だけ』っていうのがないから。 律は私を特別な奴だと思っていないんじゃないのか。 それが怖くて仕方がない。 随分前に、私のことを特別だと言ってくれた律。 でも、それが今でも続いてるのか。 そう考えると、律じゃない私は何も言えない。 「おい澪ー、寝るなよ」 「寝てないよ」 「じゃあ答えろって。澪ならどうするの?」 私が今ここで何を言えば、律はその子の元へ行かないのだろう。 食事会を断る選択に律を導くことができるんだ? ……馬鹿澪。 そこは律が決めることだって自分で言っておいて。 結局、律のことが好きだというその子の恋路を邪魔しようとしてる。 行けばいいだろって、昼間は言ったくせに。 そう言って、律がそうするって言わなくてよかった。 私は私の発言が一番わけがわからない。 律に断ってほしい。その子との食事を。 そう言うのは、間違いなのかな。 でも、そうしたいんだ。 律に、そっちに行って欲しくないんだ。 「断る、かな」 「……そうか。じゃあ私は、どうしようかな」 律は普通の、波のない普通の声で言った。 私は自分の馬鹿さ加減に呆れる通り越して怒りが高まってきた。 自分勝手すぎるよ私。 私は居た堪れなくなって……本当はもうこれ以上この話はしたくなくて。 何より律がこの話題のことを考えているという事実から目を背けたくて。 「そんなことより、課題やりなよ」 「そうだった! じゃあ、電話切るな。また明日」 「ああ……」 私は携帯を枕に叩きつけた。 ……もう、胸が痛くなるばっかりだ。 私はどうにか時間が痛みを消してくれることを願って、さっさと寝た。 私は、どうしたんだ。 律と一緒にいたら、私は変になってるんだ。 律が誰かと仲良くなること。 律とすでに仲のいい誰かがいること。 律のことを好きな誰かがいること。 ……私は、そんな律に嫉妬しているかもしれないこと。 ああもういいや、寝ちゃおう。 そうすれば、また明日律に会えるんだから。 こんな痛みとも、お別れできるはずなんだから。 14
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17917.html
「澪、昨日からなんかおかしい」 律の顔は見えないまま、律は静かにそう言った。 「……食事会はなんで断らなかったんだとか。昨日から言ってること、よくわかんないとこがあるし。 今日もさっきから、なんか変だしさ」 律の声は、さっきよりも明るくなくて、だんだん細くなっていった。 私たちの足音は、廊下に共鳴している。 少しの沈黙。 痛い沈黙。 私はどうすればいいんだ。 まだ胸の高鳴りが収まらないんだよ。 が。 「こっちを見ろ澪ー!」 律はあろうことか私の肩を掴み、無理やりこちらを向かせたのだ。 ドラマで見た、キスする直前みたいに。 律は私の両肩にそれぞれ手を置いて。 まじまじと私の顔を見た。 「別に変なとこないぞ……?」 律はどうやら、やっぱり私の顔に怪我か何かしたからそっぽを向いていると思ったようだった。 さっき違うって否定しただろ。信じてなかったのかよ。 それよりも。 律の顔が、目の前にある。 目の前に。 綺麗な瞳が、無邪気な顔が。 目の前に。 『りっちゃんの事、好き?』 『恋愛感情としての、好きかってことよ?』――。 頭の中で、火花が散った。 やめて。 もう、私を変にしないで。 心臓が跳ね上がったり、顔が熱くなったり。 なんでそんなことになるの? 私、どうしちゃんだんだろう。 何にもわからないくらい、体中が熱いよ。 律を見てると、胸が痛いよ。 でも、それと同じくらい胸がいっぱいになって。 一人で帰ったって、夜になっても。 ずっとずっと律の事考えてる。 おかしいんだ。 どうなっちゃったんだ。 律律律律って。 もうずっと律の事ばっかりで。 体がうずうずして、落ち着かなくなったり。 律が、私以外の人と仲良くしてるの見て、怖くなったり。 律のことばっかりで。 私は、律を弾き飛ばした。 勢いよく律を押し飛ばしたから、律は床に尻餅をついてしまう。 私は、もう沸騰してしまいそうな顔を隠すために。 そして、この高鳴りすぎて爆発しそうな心臓を止めるために。 何より私の『変』を止めるために。 駆け出した。 やめて。 もう私を変にしないで。 律は追ってこなかった。 私は初めて、講義をさぼった。 これが、 恋愛感情? ■ 2月10日 くもり どういうわけかよくわからないけど、澪に突き飛ばされた。 澪はすっごく赤い顔をしていて、泣きそうな顔もしていた。 それからどこかに走って行ってしまって、講義には来なかった。 私はよくわからないまま、ずっといつもの席で一人で講義を受けた。 入学して最初のメンバーも、澪はどうしたって聞いてきて。 私はわからないと言った。メンバーは、そっとしておいてくれた。 その日は、いつもより全然講義が頭に入らなかった。 私は澪に、何かしたんだろうか。 やっぱり食事会を断った方がいいんじゃないか。 そう思って××さんにやっぱり断ると言ったら、もう場所を予約しているらしい。 もう私は、私を好きだと言ってくれる子と食事をするしかなかった。 後悔した。その子には、申し訳ないけれど。 澪がそのことに怒っているのなら、謝らなきゃいけなかった。 メールしたけど、返事はなかった。電話も出なかった。 寂しかった。 早く気付けよな澪も。 私の気持ちぐらいさあ。 寂しいよ、澪。 ■ 私はサボったその日、すぐに家に帰って寝ていた。 家に帰ってきたのが午前九時半で、今は午後十時だった。 どうやらまるまる十二時間は寝ていたみたいだった。 お昼御飯も晩御飯も食べていない。 だけど全然食欲はなく、頭には律の顔が浮かんでいた。 (……律) 律。 私の、初めての友達。 今まで誰とも友達にならなかった、そしてなれなかった私にとって、初めての。 初めてあんなに人と話した。 初めて家族じゃない人とご飯を食べた。 一緒に授業を受けた。 一緒に買い物にも行った。 お互いの誕生日を祝った。 クリスマスも一緒にいて。 冬休みは、同じ地方だって知ってたから一緒に帰って。 それで、実家も近くだったから一緒に遊んで。 年越しも一緒で。 初詣も。 ずっと。 この一年ずっと、ずっと一緒だった。 律は友達がたくさんいるのに、いつも私と一緒にいてくれた。 私は律しか友達がいない。 律はたくさん友達がいる。 だけど律は、私といることを選んでくれた。 律は、私の寂しさを知っていたかもしれない。 知らなかったのかもしれない。 律が私じゃない誰かと一緒にいることが、私は嫌なのだと。 それを律が知ってたから、私と一緒にいてくれたのかもしれない。 そうじゃないのかもしれない。 でも、どっちでもいい。 律は私と一緒にいた。 どんな時も、一緒にいたんだよ。 だから、一緒にいられないのも怖いんだよ。 律のことを好きだと言っている、その子と食事をするって聞いて。 怖くて。 一緒にバレンタインを過ごせないのかなって、怖くて。 そしてもしかしたら。 律が私を放って、その子のところに行っちゃうんじゃないかって。 怖いんだ。 平沢さんと律が話してる場面に出くわした時、怖くなった。 律が曽我部さんと元々知り合いだったと知った時、痛くなった。 律が誰かと一緒にいたりすることを想像する時、震えた。 私は、律に嫉妬してるんじゃない。 律と一緒にいる、私以外の誰かに嫉妬してたんだ……。 だけど律と一緒にいるのは、楽しいんだ。 話してるのは、楽しい。 だけど、それだけじゃなくて。 最近は律といたら、恥ずかしくって。 律の事見てると、可愛いなって思ったり。 律の体を変に意識しちゃったり。 エッチなこと考えたり。 笑ってくれたりすると、私はドキドキしてしまう。 律の隣にいて、一緒にいて、ご飯食べて、一緒に講義受けて。 一緒に演奏して。 名前を呼んでくれるだけで、痺れるんだ。 『澪』って、律の口から出るだけで、心が躍ったりするんだ。 一つ一つが、楽しいのに。 最近は、直視できないよ。 律を見ていたら、胸が張り裂けそうになるんだよ。 『りっちゃんの事、好き?』 『私にとっても、澪は特別』 『澪』――。 『澪を一人にしたら悲しんじゃうだろうしなー』 『もっと早く出会いたかったな』 これが。 これが、好きってことなの? 律のことが、私は。 好き。 好きなんだ。 律のことが、好き。 律の顔を思い出すだけで、落ち着けなくなって高揚したり。 律が話しかけてくれるだけで、嬉しくて楽しくて。 律が他の誰かと仲良くしてて、胸が痛くなるのも。 一日中律のことを考えてるのも。 好きだから。 私は、律に恋してるんだ。 「律……」 律は、私の初めてをなんでも奪っていく。 今度も、奪われちゃったな。 初恋。 18
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17924.html
田井中さんと秋山さんは、見るからに両想いだった。 だけど二人はなぜか一歩踏み出せずにいるようだったし、恋人になっているわけでもない。 ただずっと一緒にいて楽しそうにしているけれど、関係が友達以上になっている様子はなかった。 それは、『同じ高校出身である』という立場を隠して、 あたかも大学で初めて二人と初対面だったかのように振舞っているムギちゃんが断言している。 ムギちゃんは、実は私と田井中さんと秋山さんと同じ、桜ケ丘高校出身だ。 でも、ムギちゃんはそれを他の誰にも言わなかったらしい。 どうして、と聞いてみたら、その方が動きやすいからよと答えていた。 その意味が今ならよくわかる。 ムギちゃんは、女の子同士をくっつけるプロだったのだ。 なんとN女子大で何人ものカップルを成立させているみたい。 ムギちゃんはその成立の過程で、『桜ケ丘高校出身』という肩書が少しばかり交友関係を狭めてしまうと考えたみたいだ。 結果、田井中さんと秋山さんをくっつけるためには『桜ケ丘高校』と二人にバラしておかなくてよかったも言っている。 私と田井中さんと秋山さん、そしてムギちゃんの四人が同じ高校出身であると知っているのは私とムギちゃんだけ。 私とムギちゃんは高校時代から知り合いだった。 もちろんそれを他人に言うことはさっき言った理由から禁止されていて、あたかも大学で知り合ったかのように振舞っていた。 田井中さんは、ムギちゃんを『大学に入ってからできた友人』、そして秋山さんは『律が大学に入ってからできた友人』だとそれぞれ思っている。 だからムギちゃんは、二人をくっつけるために計画を立てやすかったのだ。 まず、架空の人物『理学部の子』を作り上げる。 その子は、田井中さんのことが好きで、バレンタインに一緒に食事をしたいと考えているという設定にした。 当然架空の人物なのでそんな女の子は存在しない。 ただ、秋山さんが焦る要因を作る必要があったのだ。 ムギちゃんは、まず田井中さんを連れ出してこう言う。 『りっちゃんのことが好きな女の子が理学部にいるの。名前はまだ教えられないんだけど…… その子がね、バレンタインに一緒に食事をしないかって』。 もちろん真っ赤な嘘だ。 しかし田井中さんはそれを真に受けて、悩む。 自分のことを好きだと言ってくれている女の子が食事に誘ってきた。 それもバレンタインに。 しかし自分は澪のことが好きなので、行きたいとは思わない。 でも相手にも失礼だし……。 田井中さんはまずそんな風に悩むだろう。 そしてムギちゃんは、あえて秋山さんに隠すようにそれをりっちゃんに伝えた。 つまり、二人の食事中に、『秋山さんの前だとあれだから』と言ってりっちゃんを連れ出す。 すると秋山さんはまるで隠し事をされているみたいで、ムギちゃんと田井中さんの話が気になるに違いない。 そして秋山さんは田井中さんにこう言うだろう。 『一体何の話をしていたんだ?』って。 田井中さんは、自分自身どうすればいいのかわからないぐらい悩むので、 自分を好きだと言ってくれている理学部の子に食事に誘われたことを秋山さんに話した。 ここでムギちゃんの思惑が絡んでくる。 秋山さんは、田井中さんが田井中さんのことを好きな女の子と食事を取るということに対していい思いはしない。 むしろ嫉妬してしまうはずだと。 だけど秋山さんはその『嫉妬』や、田井中さんが誰かと仲良くしたりすることに対するモヤモヤが何なのか気付いていないような節があった。 だから、『田井中さんが別の誰かと恋仲になるかもしれないんじゃないか』という不安に秋山さんを追い込むことが、 秋山さんの田井中さんに対する想いを自覚させるきっかけとなると考えたのだ。 実際田井中さんが食事会に行くと決めてから、秋山さんはとても悩んだと思う。 ムギちゃんは、田井中さんと秋山さんと『理学部の子』の仲介役だったので、二人の様子がよくわかると言っていた。 田井中さんは、ときたま秋山さんの方を見て気になるようだったし、秋山さんも表情から戸惑っているのがまるわかりだとムギちゃんは語る。 やっぱり『理学部の子が田井中さんを食事に誘う』ということは、二人の関係を大きく進展させるきっかけに。 そして二人の相手への想いを自覚させさらに強くさせるきっかけにもなったのだ。 ムギちゃんはそれから、バス停から降りてきた秋山さんに話しかけたりもしたらしい。 田井中さんのことどう思う? とか、恋愛だとか恋だとか、好きだとか。 そういう恋愛的なワードや質問を秋山さんにぶつけて、もっと心を揺さぶったのだ。 そうすることは、秋山さんの田井中さんへの『好き』という気持ちに気付いてもらったり、 告白するための勇気や高揚を与えることに繋がるとムギちゃんは考えたみたいだった。 その日、秋山さんは講義に来なかったらしい。 そして田井中さんも寂しそうに一人で講義を聴いていたとか。 ムギちゃんはそれを見て、二人の関係が進展した――というよりも恋愛感情に気付いて少し気恥ずかしくなったんだと喜んだらしい。 ここまでくるとあと一歩だと思ったみたいだった。 ムギちゃんは、二人をバレンタインの日に出会わせると決めていた。 場所は大学の中庭の噴水の前。 そのために、バレンタインの前日の夜に田井中さんと秋山さんに電話すると決めていたムギちゃん。 その電話を掛ける少し前に、私に電話が掛かってきた。 ムギちゃんはあることをやってほしいのと頼んできたのだった。 私はムギちゃんのその依頼に快く応じた。 私も田井中さんと秋山さんがいつも一緒にいるのになかなか進展しないというのはもどかしく思っていたからだ。 依頼の内容は、こうだった。 「明日のバレンタインね、前にも云った通り『理学部の子』がりっちゃんと食事をするって段取りになってるの。 それでね、今から私はりっちゃんに『明日は四時半に大学の中庭の噴水前に集合』って伝えるわ。 だから唯ちゃんは、『理学部の子』の役になって澪ちゃんに電話を掛けてほしいの。 『明日の四時半にお話ししましょう。大学の中庭の噴水に四時半』って」 「いいけど、もし二人がお互いに時間を教えあったらおかしいと思われないかな?」 「そうね……じゃあね、私はりっちゃんに『この四時半に集合、というのは誰にも教えたら駄目』と言っとくわ。 だから唯ちゃんも、澪ちゃんに他言したら駄目というのを伝えておいて」 「わかった! でも、明日は田井中さんと食事するのに私と会っている暇があるの? って聞かれたらどうしよう?」 「その時は、『田井中さんとは五時に待ち合わせしてます』って言っておいて」 「なるほどー……あ、でも予想しなかった質問とか来たら?」 「うーん、そこはなんとかしてもらうしかないわ。 たださっき言ってくれたことだけ守ってくれればいいの」 「りょうかいです!」 そんなやり取りがあって、ムギちゃんは田井中さんに、そして私は秋山さんに電話した。 ところどころ私のアドリブや、ちょっと違和感が出たところもあるかもしれないけれど……。 でも私だとバレないように、もちろん一度しか会ってないし話もほとんどしていなかったからバレないとは思っていたけど、 でも念には念を入れて平坦で抑揚のない、少し低めの声で電話した。 しかし、秋山さんが『律は渡さない』なんて大胆に言うとは思わなかった。 架空の人物である『理学部の子』であろうと、一応初対面だったのだ。 秋山さんは初対面の相手にあそこまでズバッと物を言える人じゃない。 それなのに、あんな風に言えるということは……。 やっぱり、田井中さんのことが大好きで、絶対に誰にも渡したくないって想いが強かったんだろうなって思った。 それからなんとか上手く行って、二人は噴水前で出会った。 私とムギちゃんは、二階の窓から噴水でどぎまぎしている二人を見ていたんだ。 私たちの計画は、あの二人が噴水で出会ったらクリアだと思っていて、二人は噴水で出会った。 私たちはやった! と喜んだ。 そして、二階の窓から二人を観察していたのだ。 こちらを見た秋山さんには少し驚いていた様子だった。 ムギちゃんと二人で『頑張れ!』『告白しようよ!』と想いを込めて手を振ったり親指を立てたりするジェスチャーをしてみた。 少しして、その場を離れて別の窓から二人の様子を窺っていた。 秋山さんは、大声で田井中さんに告白したのだ。 私とムギちゃんは、その窓を少しだけ開けて、二人の会話を聞いていた。 秋山さんはこれでもかというぐらい大きな声で、田井中さんを好きだ好きだと叫んだ。 ムギちゃんは満足そうにしていた。 私は、二人の様子を見て、なんだか胸がときめいた。 恋ってすごい。 あの秋山さんを、あそこまで泣かせて叫ばせることができるんだ。 そして、『好き』って言葉が、こんなにも人の心を揺さぶるんだと。 私も恋をしてみたいなって、思った。 しかも、田井中さんは秋山さんにキスしたのだ。 二人はそれから、ずっと抱きしめあって口付けしていた。 雪が降っていたので中庭にはあまり人がいなかったけど、やっぱり気付いた人は皆二人を見ていた。 二人は、最高のカップルになっていた。 私はその二人の姿に、ドキッとした。 恋って本当にすごいって。 その後、ムギちゃんは権力行使で二人が絶対に知らないであろうメールアドレスから二人へメールを出した。 ムギちゃんのお父さんはいろんな業界の権威みたいなので、新しいメアドやそういうものの手配が簡単らしい。 だから、二人にはメールが届いたはずだ。 たった一言の。 田井中さんと秋山さんへ向けた、祝福の言葉だった。 「お幸せに――」 回想から戻ってきて、私は目を開いた。 私は尋ねた。 「それで、二人はどう?」 「うん。もう人目はばからずイチャイチャしてるわ」 それって今までとあんまり変わらないんじゃないかなあ。 私が見た限り、そしてムギちゃんの報告では、 二人とも前々からずっと一緒にいて漫才やったり甘えたりイチャイチャしていたみたいだ。 それを言うと、ムギちゃんは笑った。 「だけど、恋人同士っていうイチャイチャっていうのかな…… なんか、前にはなかったお互いがお互いを愛してますよって雰囲気がすごい伝わってくるのよ!」 ガッツポーズした。 私は二人の姿を、今でも鮮明に思い出すことができる。 確かに、もう理想すぎるほどのカップルだ。 それはもう、夫婦の域と言ってもいいんじゃないかな。 お互いがお互いを求めあってて、片方がふざければ片方が突っ込んだり。 片方が甘えるならそれを片方が受け入れる。 そんなありそうでありえない、そしてあまりにも普通すぎる――でもそれが難しいようなカップルの典型を二人は簡単に見せてくれたのだった。 あんなにイチャイチャはそうそうできるもんじゃないよ。 私はそれを思い出すだけで、ふわふわした気持ちになるのだった。 「ムギちゃん……」 私は冷たいオレンジジュースのコップに手を触れた。 ムギちゃんが眉を寄せて尋ね返してくる。 「どうしたの?」 ほとんどひとりごとのように、私は呟いた。 「……私にも、ああいう恋ができるかなあ」 純粋な気持ちだった。 私が出会ってきた全ての皆さんは、全ての皆さんの思うように生きていて、誰かと出会って、そして思い出を作ってる。 私が出会ってきた全ての皆さんに、私は一体何をしてきたんだろう。 深い交友関係があるのは、和ちゃんとムギちゃんぐらいじゃないのかな。 もし高校時代に何か――そうだ、部活か何かやって、熱中したり、 自分の居場所を見つければ、恋の一つもできたかもしれないんだ。 私はそのチャンスを逃した。 それだけのことだけど、でもどうしようもなく悔しい気持ちもある。 あんなにすっごいカップルを見せられたら、こっちもその気になるよ。 私は膝の上で手を組んでもじもじしながらムギちゃんに言う。 「何か、恋の秘訣とかないの?」 ムギちゃんは、あまり考えない装いでフッと目を細めた。 それは、私の考えをお見通しだというような、だけどまるで見守ってくれているようなそんな優しい瞳で。 私はそれがよくわからなかったけど、でも安心した。 25
https://w.atwiki.jp/takarazima/pages/984.html
1 ロックドゥカンブ 2 ゴールデンダリア 3 スクリーンヒーロー 4 マイネルアナハイム 5 ガルヴァニック 6 サンワードブル 7 シグナリオ 8 マイネルダイナモ 9 リミットブレーカー 10 クランエンブレム 11 マイネルグラナーテ 12 デストラメンテ 13 エフティイカロス 14 メイショウレガーロ 15 アップルサイダー 16 ナンヨーヘブン 17 トップモンジュー セントライト記念
https://w.atwiki.jp/cfvg/pages/5576.html
バミューダ△ - マーメイド グレード〈3〉 ノーマルユニット (ツインドライブ!!) パワー 11000 / シールド - / クリティカル 1 自【V】【LB4】:このユニットがヴァンガードにアタックしたバトルの終了時、あなたの、手札かソウルから「PR♥ISM-I ヴェール」を1枚選び、【レスト】でライドしてよい。ライドしたら、あなたのソウルから「PR♥ISM-I イノセンス・ヴェール」を1枚選び、手札に加え、あなたのリアガードを2枚まで選び、手札に戻す。 自:このユニットが(V)に登場した時、あなたの手札から3枚まで選び、ユニットのいない別々の(R)にコールしてよい。3枚コールしたら、SC(1)し、1枚引く。 フレーバー:歌姫たちが輝く。夢は今現実となる。 PR♥ISM-I イノセンス・ローザ バミューダ△ - マーメイド グレード〈2〉 ノーマルユニット (インターセプト) パワー 9000 / シールド 5000 / クリティカル 1 自【R】:他のあなたのユニットが(R)から手札に戻された時、あなたのカード名に「PR♥ISM」を含むヴァンガードがいるなら、そのターン中、このユニットのパワー+3000。 フレーバー:理想を思い浮かべるといい。彼女たちはいとも容易くそれを超えてくる。 PR♥ISM-I イノセンス・クリア バミューダ△ - マーメイド グレード〈1〉 ノーマルユニット (ブースト) パワー 7000 / シールド 5000 / クリティカル 1 自【R】:[CB(1)-カード名に「PR♥ISM」を含むカード] このユニットが【ブースト】したバトル中、アタックがヴァンガードにヒットした時、コストを払ってよい。払ったら、他のあなたのカード名に「PR♥ISM」を含むリアガードを1枚選び、手札に戻し、あなたの手札から1枚まで選び、(R)にコールする。 フレーバー:透明な瞳。純真なる心。 順位 選択肢 得票数 得票率 投票 1 使ってみたいと思う 0 (0%) 2 弱いと思う 0 (0%) 3 強いと思う 0 (0%) 4 面白いと思う 0 (0%) その他 投票総数 0 ヴァンガードじゃないヴェールのLB4はLB解除じゃ外れないんだが… (2015-07-29 08 36 37) 知ってるが (2015-07-29 09 15 20) 対応した方が便利かなー (2015-07-29 18 43 20) うーん修正 (2015-08-01 00 35 33) コメント
https://w.atwiki.jp/takarazima/pages/986.html
1 ナカヤマフェスタ 2 フォゲッタブル 3 ナリタクリスタル 4 セイクリッドバレー 5 アドマイヤメジャー 6 ヒカルマイステージ 7 マッハヴェロシティ 8 トウショウデザート 9 ロードパンサー 10 カルカソンヌ 11 サトノエクスプレス 12 パラディーゾ 13 ミッキーペトラ 14 ゴールデンチケット 15 イグゼキュティヴ 16 マサノウイズキッド 17 アムールマルルー 18 ブレイクナイン セントライト記念
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17916.html
■ 次の日、バスから降りると誰かが傍に近づいてきた。 「おはよう、秋山さん」 「あ……」 話しかけてきたのは、××さんだった。 ここ最近いつも私と律の会話に入ってきて、理学部の子の言伝を伝えてくる××さんである。 昨日律をカラオケに誘っていたのもこの人だった。いや、昨日のはあのメンバー全員かな? 私はこの人に何度も会っているけど、実際に二人だけで話したことはなかった。 名前もお互い知っているのに、呼び合うような仲でもない。 実際私にとって、律以外の誰かを名前で呼び合うような間柄の人は誰もいないのだ。 バス停からは約徒歩五分ほどで大学に到着する。 律はいつも大学の学部棟の玄関で私を待っていてくれるので、すでに先に行っているだろう。 私は××さんと一緒に、大学までの道のりを歩くことになってしまった。 なぜこの人がバス停で私を待ってくれていたのかわからない。 彼女は私と並んで歩きながら、話題を吹っ掛けてくる。 「……秋山さんは、りっちゃんの事どう思ってる?」 「えっ?」 どうしていきなり律の話題が出るんだ。 「ど、どう思ってるって……」 突拍子もない話題。関連性のない話題。 ここ最近毎日律のことで頭や胸が詰まりっぱなしだった私は、余計にその話題が提示されたことに反応してしまった。 ドキッとして、変な声を出してしまう。 彼女は楽しそうに話している。 私は緊張しているけれど、彼女はニコニコして言葉に淀みがなかった。 どう思ってるって? それはどういう意味なんだろう。 友達っていう関係の事? 優しい奴だとかかっこいいし美人だとかいう外見的な私の評価? どれをとったって『私が律をどう見ているか』『どう思っているか』の項目にあてはまるだろう。 彼女の意図しているのはどれなんだ。 「そうね曖昧ね……うーん」 「……」 「りっちゃんの事、好き?」 直球すぎて、私は頭を殴られたような気がした。 「すっすす好きって……?」 「恋愛感情としての、好きかってことよ?」 「れ、れんあい……」 聞き慣れない単語に、私は狼狽した。 れんあいかんじょう? すき? 私は今まで友達もいなかった。まして恋愛など一度もない。 だから私にそんな気持ちがあったとしても、それが果たして恋愛感情で、相手のことを好きであるという気持ちなのかの判別さえ付かないのだ。 だから彼女の質問だけで、はい、いいえの判断は自分ではできなかった。 「……わかりません」 「ふうん……」 私がそれだけ返すと、彼女は納得したように頷いた。 そして思いついたように人差し指を立てた。 「じゃあいくつか質問するね。それで私が、秋山さんのりっちゃんに対する感情が一体何なのか判断してあげる」 なぜそこまでするのだろうか。 時折彼女がとても楽しそうにするのが、まるで私の苦しみみたいなものを楽しんでるかのように思えてちょっとだけ複雑な気持ちだった。 多分彼女に悪気などないのだろうけど……でも、ただでさえ最近律のことで頭が混乱しているのに。 私のそんな思いとは裏腹に、彼女は意気揚々と口を開いた。 「第一問。りっちゃんと話すのは楽しい」 「……」 「はいかいいえで答えて」 彼女は人差し指――多分第一問という意味――を立てたまま、少しばかり不敵に笑った。 私はといえば第一問目から答えにくくて喉が詰まった。 話すのは楽しい。 それを頭で考えるとなると、簡単に律と会話している自分や光景が頭に浮かんだ。 出会ってからまだ十カ月程度だけど、たくさん話をした。 最初は大変だとか苦手だとか思ってたかもしれないけど、でもいつからか律と話すのは……。 「……はい」 「はいということは、楽しいというわけね」 確認まで取られた。私はすごく恥ずかしかった。 「……念のために言っておくけど、私が秋山さんと話したことは二人だけの秘密ね。 この会話の内容とか、秋山さんの質問の答えなんかも絶対に誰にも言わないから」 彼女は私の意志を汲み取った。 私は、自分の『律と話すのは楽しい』という答えが彼女を通していろんな人に伝わってしまうのではないかと一瞬だけ怖くなった。 もしかしたらその怖いという思いが表情に出てしまっていて、彼女はそれを読み取っただけなのかもしれない。 どちらにしても、他言しないというのは安心した。 しかし一体この質問に何の意味があるのだろう。 私の、律に対する感情が何なのか判断する……。 律のことを考えると胸が痛いとか、そういうものの原因がわかった時、私は平静でいられるのかな。 「第二問……の前に、大学に着いちゃったようね」 え? と前を見ると、すでに大学が目の前にあった。 彼女の質問は終わりなのだろうか。それはよかったかもしれないけど、でもこの感情が一体何なのか気にならないわけでもなかった。 だから逃れられたのは安堵する半面、まだ解消しきれていない不安が中途半端に残っている底気味の悪い感覚も胸に渦巻いている。 「秋山さん。昨日、私がりっちゃんをカラオケに誘ったの覚えてるわよね」 「……うん」 またしても脈絡のない質問に私はそれしか言えなかった。 彼女はまだ微笑んでいる。 「どう思った? これが第二問よ」 「――」 私は。 律が彼女にカラオケに誘われてて――もちろん二人っきりでではなく、律が大学に入って最初に仲良くなった数人のメンバーで行こうという意味だ。 律が他の誰か数人とカラオケに行かないかと誘われた時、私は……。 律に嫉妬した、ような気もするけど。 わからない。 でも、どうしようもなく不安になって。 律が離れていくような、律は私をどうとも思っていなくて、特別だとも何とも思っていないんじゃないかって。 変に律に対するモヤモヤが強くなった。それが何かもわからないまま。 律に対して、モヤモヤしてたのか。 それとも……。 私は戸惑ったまま返事をする。 「……胸が痛かった」 「――それよ! 聴かせてくれてありがとう」 彼女は何が聴きたかったのかわからないけど、それで満足したようだった。 そして掌を合わせて、謝るような仕草をした。 「昨日はりっちゃんをカラオケに誘っちゃってごめんね」 なぜそれを私に謝るのかよくわからない。 「実はね、昨日田井中さんをカラオケに誘って、私はこっそり抜け出して秋山さんと二人でお話しするつもりだったの。 あなたたち二人を見てると、とても楽しいのよ」 私たちを見ていると楽しい? それはどういうことなのだろうか。私はまだ彼女の事を――まだ、というよりこれからも知る必要はないのかもしれないけど…… 一体何が彼女を楽しくさせるのか見当もつかないぐらい知らないのだ。 赤の他人と言っても差支えないぐらい、私と彼女は交流がないのだから。 しかしどういうわけか、彼女は私の反応を楽しんでいるようだった。 本当に彼女はわからない。 さらには、昨日律をカラオケに誘ったのは、『律をカラオケに誘いたかった』からではなくて、『私と二人で話そうと思ったから』らしい。 ますますよくわからなくなってしまった。どうして私と二人で? 交流もあまりないのに。 しかもさっきから私と話したのは律の事じゃないか。 「なんで私と、二人で……?」 「うーん、まあ簡単に言うとね。いつも秋山さんはりっちゃんと一緒にいるでしょう? だから、秋山さんに『りっちゃんをどう思ってるか』みたいな話が、りっちゃんと一緒だとできないのよ。 カラオケにりっちゃんを誘ったら、多分あなたは行かなかった……そうなると秋山さんは一人で帰らなきゃならなくなる。 私はその秋山さんが一人の時に、二人で話そうと思ってたの」 そこまでして、私と話したいのはわかったけど。 でも、結局二人になって話したのは『律』のことだった。 それがまだ引っかかったままだった。 「でもさすがりっちゃんね……まさか断るなんて」 律は、友達のメンバーとカラオケに行くことを断った。 その理由を、澪がいないとつまんないと言ったのだ。 私はそれが、嬉しかったのかもしれない。 でもその嬉しさと同じぐらい、カラオケは断ったくせに理学部の子との食事会は行くのかって怒りみたいなのもでてきて。 それで、律にちょっとだけやつあたって……喧嘩にはならなかったけど、でもいつもより少しだけ気まずくなった。 それがたまらなく嫌でもあった。 「どうして、りっちゃんがカラオケを断ったかわかる?」 「……」 もう少しで大学の学科棟の正面玄関。 それでも、彼女は質問してきた。 これが、最後の質問なのかな。 「私がいないとつまらないって、律は」 「――さすがりっちゃんね。つまりそういうことよ」 「えっ?」 「それじゃあ私、友達待たせてるから。それに、私と秋山さんが一緒に玄関に入ったらりっちゃんがいい思いしないし」 「えっと、どういう……――」 「それじゃあね。頑張ってね秋山さん」 彼女は手を振って、一足先に玄関に入って行った。 頑張って。 私は、何を頑張ればいいんだろう。 彼女は一体、私に何を頑張ってほしいんだろうか。 私には、まだ何もわからない。 ■ 「おはよ澪」 律は入ってきた私に、いつものように挨拶をしてくれる。 しかし、私はいつも通りではなかった。 さっきまでの××さんとの会話が、尾を引いていたのだ。 それは悪い意味なのか良い意味なのかもわからない。 でも私は確かに、彼女と『律』についての会話をした。 『りっちゃんの事、好き?』 『恋愛感情としての、好きかってことよ?』――。 こんな質問が、頭の中を駆け巡っていた。 律の顔を見た途端、またその質問は――私の心が真っ白な空間だとしたら、大きな文字でその真っ白な世界に書き出されたような。 その文字が、思いっきり心に叩きつけられて、それがくっついてとれないような。 そんな質問が、浮かんで。 律の顔を見て。 なんて形容したらいいのかわからないぐらい、顔が熱くなった。 私は律の顔が直視できなくて。 これ以上律を見ていたら、私が爆発しちゃうんじゃないかってぐらい体中がどうしようもないくらいそわそわして、熱くなった。 私は俯いて、顔を見せないように言った。 「……おはよう」 「ん? なんで下向いてんだ?」 お前の顔を見たくないからだよ馬鹿。 見たいよ。そりゃ、律の顔。見てたら楽しいから。 ××さんに答えたように、律と話すのはとても楽しい。 話すためには、顔を見なきゃいけない。 いつも通り、講義大変だなとか課題どうとか、そういう他愛もない話をするためにはやっぱり律と顔を合わせなければいけないよ。 そんなの今まで普通にやってきてたし、そんなの当たり前だった。 だけど今はできなかった。 どうしてかって。 律の顔を見たら。 私は、変になる。 心臓がバクバク鳴って。その音だけで何にも聞こえなくなるぐらい。 私は、おかしい。 おかしいんだ。 律を見たら、私は変になるんだ。 「おい澪ー? 顔あげろよ」 「う、うるさい……とにかく行くぞ」 私は極力律を見ないように、歩きだした。 下を向いているのではなく、右隣に律がいるから、そっちを見ないように左側の方向ばかりを見ながら。 廊下に移り変わっても、私はとにかく律を見ないことだけを注意していた。 「おーい澪。何? 顔に怪我して見られたくないとか?」 いつまでも律は、私が目を合わせてくれないことについて怪しく思っているようだった。 私だって、律と顔を合わせれたらいいだろうけど。 でも、今日の私は途轍もなく変で、もう何を言っちゃうかわからない。 「違う……」 「じゃあなんでこっち見ないんだ? もしかして怒ってたり?」 私が律の何を怒らなきゃいけないんだ。 理学部の子との食事を了承したことか。 思いつくのはそれしかなかった。 結局、私は……そればっかりだ。 やっぱり、行ってほしくないと思ってるんだな私は。 それを言わないのも、逃げだけど。 なんで、行ってほしくないんだ? それは自分の感情なのに、答えが出せない。 律が食事に了解を出した時、なんで私はモヤモヤしたんだよ。 わからない。 わからないよ……。 17
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17922.html
私の両頬を、何かが包んだ。 冷たいけど、温かな手の平だってすぐにわかって。 その手の平が、ゆっくりと私の顔を持ちあげた。 視界が開ける。 目の前に、律の顔。 涙の所為で滲んで見えるけれど、とっても優しい顔をしていた。 優しい優しいって。 何でもいつでも律は優しい。 そのうっとりする様に、私を見つめてくれる瞳も優しい。 私の頬に添えられている手の平だって優しい。 私の名前を呼ぶ声も、優しい。 だけど、今の律の顔はそれだけじゃなくて。 微笑みながらも――でも、真っ赤な顔をしていたんだ。 そして、ゆっくりと。 キスをした。 私は、驚くことさえできなくて。 初めての、よくわからない感触が口元に広がるのを感じるだけだった。 意識が全部吹き飛ぶ。 ただ私の五感は、全部律へ向けられていた そんな甘い感覚だけが、私の全身を支配するだけ。 長いキスは、短かった。 律が口を離した。 私は一息吐いてから、よろけながら自分の唇を指で撫でた。 そこで初めて、状況を理解した。 ……律が、私にキスをした。 あの律が……私に。 さっきまで、十分に混乱していたけど。 ここにきて体中が熱を帯びる。防寒のための厚着が、裏目に出る。 風邪をひいたときなんかよりも、ずっとずっと。 熱い。 「私も、澪のこと好きだ」 ――。 う、そだ。 「嘘……」 私は、口元を手で覆った。 本当に小さく、そう呟くだけだった。 「嘘じゃ、ないよ」 「そ、そんなの……う、嘘……!」 律も私が好きだなんて。 嘘だ。 私はまた泣いた。 律にキスされて、少し涙は引いてきたと思ったのに。 「嘘じゃないぜ。本当に」 私は律のことが好きだ。 でも、律も私のことが好きだなんて。 そんな奇跡。 そんなこと、あるなんて。 ありえないだろうって。 そんなこと、あるわけないんだって思ってたのに。 いっつも、私は律を追い掛けてた。 だって、私には律しかいないのだから。 でも律は、私以外にたくさん友達がいるんだ。 私は、その律の大勢の友達の一人だと。 そう思っていたのに! 信じられない。 あっていいの、こんなこと? 私が望んでいた、律も私を好きだということ。 嘘だと、後で言わないでくれよ。 「り、律は……私のこと、特別じゃないかと思ってっ……ひっく……」 「あー泣くなよ。信じてくれないのか?」 「だってだって……律が私のこと好きだなんて、うまくいきすぎだろ……っ」 私の好きな人も、私を好きでいてくれるなんて。 そんなのありえない。 あってほしかったけど、ありえないこと。 そうだと思って、諦めていた節もあったから。 だから、嘘だとしか言えないよ。 「嘘であって欲しいのか? 澪は?」 悪戯っぽく、律はそう言った。 「ばか……ばかりつ……ぅ……」 そんなわけない。 嘘であってほしくなんかない。 私は、声を絞り出すしかなかった。 「そんなわけ……そんなわけないだろっ……」 律のことが好き。 なら、律も私を好きであってくれることを、嘘だと思いたくない。 嘘であって、ほしくなんか……。 だけど、本当に、あり得ないことだって思ってたから。 律が私を好きなはずがないって。片想いだって。 そう、思ってたのに。 律も、私と同じ言葉を返してくれた。 あまりにも嬉しくて、夢なんじゃないかと思って。 それぐらい、嬉しいから……。 「本当? 本当に……わ、私のこと、好きなのか……?」 「ああ」 律は、声を張った。 「私も、澪のこと大好きだよ!」 大好き。 律の口から、律の声で、そんな風に言ってくれるなんて。 そんな言葉が、出るだなんて……。 さっきまで、嘘って疑うことしかできなかった。 それぐらい、私にとっては夢のようなことだから。 だけど、じわじわとそれが私の体に広がった。 驚きが嬉しさに。嬉しさが胸の震えに。 胸の震えが、涙と声に。 「うう……りつぅ……」 私はさらに泣き出す。 律、律って。 律の名前ばかり呼んで。 律はそれから、私を抱きしめてくれた。 いつかの日も、私が泣きじゃくる時は律が抱きしめてくれた。 私は律の肩を涙で濡らして、律の背中に手を回す。 「りつ……りつっ……」 「澪。みーお……」 私と律は、抱きしめあったまま、しばらく名前を呼び合っていた。 ■ 落ち着いて、私と律は抱き合うのをやめた。 それでも、私たちは両手を繋いでいた。 互いに見つめあう。 私は律に尋ねた。 「……友達として、じゃ、ないよな?」 私は律のことを今までずっと好きだった。 いつからその『好き』が、『友情』から『恋愛』に変わったのかは、私自身も分かっていない。 でも、少しずつ少しずつ。 四月に出会ってから少しずつ。 私の律への想いが――『恋』に変わって行ってたんだ。 それに気付いたのが、つい先週だったというだけで。 でも、律は、私とは違う『好き』かもしれない。 キスまでされてそれはあり得ないかもしれないけど、訊いてみたかったのだ。 「そ、それも言うのか? えっと……なんつーか、その…… こ、恋人とか、恋愛感情とか……そういう意味で、好き」 律は頬を人差し指で掻きながら、顔を真っ赤にして言った。 「だ、第一……キスまでしたんだぜ。恋愛感情以外にあるかよ」 律は付け加えるようにそう言ってくれた。 やっぱりそうだった。 「澪はどうなんだよー? まさか言わせといて逃げるのか?」 「わ、私はいいだろ」 「言いなさい!」 気圧されて、私は目を泳がせた。 「私も、……律のこと、恋愛感情という意味で好き……です」 「つまり?」 「……あ、愛して――~~~~あ、もう嫌だ!」 「あーんもうちょっとだったのに」 「わ、私は至って真面目なんだぞ!」 「私も真面目だ」 律の声は、急に涼しくなった。 さっきまで私をからかっていたのに、律の表情はふっと引き締まった。 それでも、いつもの無邪気な笑顔のままで。 「澪のこと、愛してるよ」 律は、白い歯を見せて笑った。 普段は冗談ばかり言って、私をからかうくせに。 こういう時だけ、かっこいいんだよな。 ずるい。反則だ。 そういうの、本当にドキッとするんだぞ。 ドキッとはしたのに、不思議と体中は熱くならなかった。 言ってくれた。 律が、私にその言葉をくれたこと。 それは確かにじわじわと体を痺れさせ、頭も体も、全部律の色に染まる。 だけど、恥ずかしさが上擦ることはなく。 私は律のかっこよさに、その言葉に、恥ずかしさを乗り越えることができると思った。 「私も、律のこと……愛してる」 言い終えてから、恥ずかしさが出てきた。 乗り越えたと思ったのに、いざ言葉にしてみると、それは私にとって恥ずかしくてたまらない言葉だった。 言えたのに、終わってからぶわっと来るような熱さ。 穴があったら入りたい、顔から火が出る。 私のどんな言葉の知識を使っても形容しきれないほど、恥ずかしかった。 律も、顔がさらに真っ赤になっていた。 だけど、多分私の方が真っ赤だったと思う。 私はいつだって、恥ずかしがり屋のまんまだから。 「ぷっ……澪、顔真っ赤ー!」 「そ、それは律もだろっ!」 「わ、私は雪のせいだ」 「……ぷっ」 「――ふふ」 「あははははっ!」 やり取りがおかしくなって、私たちは笑った。 心の中は、すっかり暖かかった。 「……そうだ」 律は、何かを思い出して私の手を離し、鞄に手を入れた。 そこから取り出したのは、綺麗に包装された『何か』だった。 私はそれが一体何なのかわかっていたけど。 驚きと、嬉しさでやっぱり訊き返すしかないのだった。 「……そ、それって」 「わかるだろ? 手作りチョコレートだよっ」 私はまた泣きそうになるけれど、意を決して私も自分の鞄に手を入れた。 ずっと、今日の朝から秘めてたそれ。 渡そう渡そうって、朝から考えてたのに、結局怖くなって。 やっぱり渡すのはやめようって逃げ腰になってた私。 頑張って作ったこれを、渡せないままにすることを選択することは、私にとっても辛かった。 何より、喜んでほしくて作ったんだ。 だから。 「私も、これ……手作り」 23
https://w.atwiki.jp/takarazima/pages/983.html
1 キストゥヘヴン 2 ネヴァブション 3 マツリダゴッホ 4 トウショウシロッコ 5 ミストラルクルーズ 6 テンシノゴールド 7 フサイチジャンク 8 トロフィーディール 9 ニシノアンサー 10 インテレット 11 ミレニアムウイング 12 パッシングマーク 13 ダイワバゼラード 14 ユキノアサカゼ 15 ニシノフリーダム 16 マイネルハイアップ セントライト記念